職員募集 正・准 看護師 / 常勤医師 / 院内薬剤師 募集!
スタッフが落ち着いて働ける環境をつくることが、良い看護へつながると信じています!

お勉強

透析患者さんも運動を!

 透析患者さんは運動不足傾向にあり、このことは骨のぜい弱化はもとより筋力の低下をもたらし骨折の原因となり、さらには下肢の血流が悪くなり閉塞性動脈硬化症などといた致命的な病態をもたらします。当院で行っているような透析中の時間も無駄にすることなくペダル運動など積極的に運動に関わるようにして下さい。以下、当院での透析患者さんに対する運動療法の考え方を記してみました。

 腎不全の合併症や長期間にわたる透析の影響によって身体にさまざまな障害が生じ、次第に仕事ややりたい事ができなくなるなど、思い通りの生活が困難となることがあります。また、透析患者さんの高齢化の進行とともに、身体機能の低下、日常生活に介助を要する患者さんの増加が問題となりつつあります。 そのような問題に対処するため近年、腎臓リハビリテーションという概念が提唱されております。腎臓リハビリテーションの目的は症状の緩和、体力・健康の維持や増進、精神的負担の軽減、生活の質の改善などで、運動療法、教育、食事療法、薬物療法、精神的ケアなどを内容とした包括的なアプローチです※1)。 なかでも運動療法は腎臓リハビリテーションの重要な要素です。透析患者さんの高齢化、透析期間の長期化により、運動することの重要性はますます高くなりつつあります。当院では理学療法士、鍼灸師からなるリハビリテーション科スタッフが、医師の指示のもとに看護師や栄養士等と連携しながら患者さんの身体機能維持、改善に取り組んでいます。尚、腎臓リハビリテーションは腎機能の改善、回復を図るものではありません。


透析患者の体力、筋力は低下しやすい 人はだれでも歳を重ねると体力や筋力は低下します。しかし、透析患者さんにおいては、一般の健常者に比較して筋力も体力も低下していることが知られています。過去の調査では、透析患者さんの最高酸素摂取量(体力の目安としてよく用いられる指標)は同年代の健常者の60%にまで落ちている※2)と報告されています。また、腎不全による尿毒症の影響で筋肉の委縮や変性が生じ、筋力が低下してしまうことも報告されています。さらに、ホルモンバランスの異常や老廃物により骨・関節が弱くなりやすい傾向にあり、体の動きにくさの原因となることがあります。
 体力低下の一因として、透析の通院による時間的制約や透析後の疲労で身体活動量が低いこともあります。運動をする事が困難であれば、せめて家事や買い物などで体を動かすことができればよいのですが、透析生活ではそれらの生活活動も制限されることがしばしばあります。


腎不全により心臓、血管にダメージを受けている 腎臓が悪くなると、高血圧になり心臓や血管に負担がかかることやホルモンバランスの異常などにより、心血管障害や末梢動脈疾患に罹患しやすい状態となります。透析患者の死因の上位に心不全、心筋梗塞、脳血管障害がありますが、それら心・血管疾患の割合は約40%にのぼります※3)。
 下肢の動脈硬化が進行すると末梢血管疾患となり、血流不足による歩行障害、下肢の疼痛、壊死を引き起こしてしまうことがあります。場合によっては切断に至ることもあります。


トレーニングで改善できる上記の理由で、透析患者さんは健常者以上に体力や筋力の低下に注意する必要があります。しかし、透析患者さんにおいてもトレーニングによって体力(運動耐容能)、筋力は改善することが確認されています。運動療法を行ったときの効果として以下のことが挙げられます※4)。

  • 最大酸素摂取量の増加
  • 左室収縮機能の亢進(安静時・運動時)
  • 心臓副交感神経系の活性化
  • 心臓交感神経過緊張の改善
  • 栄養低下、炎症複合症候群の改善
  • 貧血の改善
  • 不安・うつ・QOL(生活の質)の改善
  • ADL(日常生活活動)の改善
  • 前腕静脈サイズの増加(特に等張性運動による)
  • 透析効率の増加

 さらに、末梢血管疾患に対しても、運動療法の有効性が示されています。国際的ガイドラインであるTASKⅡでは、末梢血管疾患の初期治療の一環として、監視下での運動療法(おもに歩行)をすべきであるとされています。末梢血管疾患の症状のひとつに間欠性は行がありますが、歩行と休息を繰り返すインターバル歩行トレーニングで症状が軽減したことが報告されています※5)。


どんな運動がよいのか? 運動の中心となるのはウオーキングです。ウオーキングは下肢だけでなく体幹や上肢の筋肉も使いますので全身運動といえます。また、歩きながら風景や会話も楽しむことで精神的な効果も得られます。ウオーキングは「楽に感じる」程度の速度で10分間程度から始めて徐々に時間、距離を伸ばしてゆきます。初めから頑張りすぎると関節痛や筋痛を引き起こしたりすることがあるので、専門のスタッフの指導、助言を受けながらすすめることが大切です。ウオーキングの他にも、患者さんの状態に応じて筋力トレーニングやストレッチ、関節可動域運動などを追加します。


透析中も運動ができる! 運動を始める際に透析患者さんにとって問題なのは、運動の時間を確保することが難しいということです。透析や通院に要する時間や、透析後の疲労で運動をできる時間は限られてしまいます。そこでお勧めなのが透析中の運動です。透析中に運動を行ってしまえば時間の節約になりますし、なにより継続しやすいという利点があります。研究報告によりますと、トレーニングの効果は、非透析日に監視下で行うのが最も効果的ですが、継続率は透析中の運動が高い※6)とされております。 当院では、透析中の運動として下肢エルゴメーターを推奨しております。透析開始後、患者さんにもよりますが、30分から1時間程度、アシスト付き(モーターで足を動かしますので力はあまり要りません)で行います。体力的に余裕があれば足首に重錘バンドを巻いて運動負荷を追加します。


体力が上がると生命予後がよくなる 体力の指標である最高酸素摂取量が高い透析患者は生命予後が良い事が報告されています。また、DOPPSという国際研究によると、定期的な運動習慣のある透析患者は運動を全くしていない患者と比較して明らかに生命予後がよいこと、運動の回数が多いほど生命予後がよいとされています※7)。また、運動とまでゆかなくても、家事等を含めた何らかの生活活動をして体を動かしている透析患者は、ほとんど体を動かさない患者と比較して死亡リスクは低値である※8)という報告もあります。


安全に運動を行うには 透析患者は血圧の変動や体液量の増減などがあるので、体調は変わりやすく、運動をすべきでない時もあります。また、膝痛や腰痛といった関節の痛み、神経障害、心疾患などを合併している患者さんにとっては、運動の方法を工夫することが必要です。それぞれの患者さんの状態に応じて、医師による指導や透析スタッフの指導や監視のもとで運動を行うことが大切です。


参考文献 1)上月正博、透析患者における運動療法の重要性、臨床透析、27:1291-1298、2011
2)Johansen KL, Physical functioning and exercise capacity in patients on dialysis, Adv Ren Replace Ther 6:141-148, 1999
3)日本透析医学会:わが国の慢性透析療法の現況 2011年12月31日現在
4)上月正博、腎臓リハビリテーション-現況と将来展望、リハ医学、43:105-109、2006.
5)Gardner AW, Exercise rehabilitation programs for the treatment of claudication pain. A meta-analysis、JAMA. 274:975-80, 1995
6)Konstantinidou E, Exersice training in patients with end-stage renal disease on hemodialysis : comparison of three rehabilitation programs, J Rehabil Med 34:40-45, 2002
7)Tentori F, Physical exercise among participants in the Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study (DOPPS): correlates and associated outcomes. Nephrol Dial Transplant. 25:3050-62. 2010
8)O‘Hare AM, Decreased Survival Among Sedentary Patients Undergoing Dialysis:Results From the Dialysis Morbidity and Mortality Study Wave 2, Am J Kidney Dis 41:447-454, 2003

いぶきクリニック 矢嶋息吹